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[「音楽」そのものになりたい] 春ねむり・「アトム・ハート・マザー」インタビュー

6/7に2ndミニアルバム「アトム・ハート・マザー」を発表した注目のポエトリーラッパー/トラックメイカー/ロックンローラー「春ねむり」さん。ライブでみせるように激しさとチャーミングさが同居する彼女に、新作について、彼女の音楽観、制作環境までいろいろ聞いてみました。

TEXT: 岡久克彦 / PHOTO: 工藤真衣子

空っぽなんですけど、曲を作ってしまう

春ねむり

6/7に発売されたミニアルバム「アトム・ハート・マザー」

これは検索すると確実に牛の写真がいっぱいでてくる(笑)タイトルですよね...。

註:"Atom Heart Mother"は、1970年発表のPink Floydの代表作のひとつ

前作(「さよなら、ユースフォビア」)を作った後に、自分が空っぽである、空洞である、ということに向き合わなければいけないな、と思いました。自分が空っぽであることを踏まえて何をするかを考えながら、1曲づつ作った曲がこのアルバムに入っています。
その、空っぽなんですけど、曲を作ってしまう、みたいな状態が、Pink Floydの"Atom Heart Mother"のタイトルの由来になった新聞の見出し「ペースメーカーを心臓に埋め込んだ妊婦」とリンクするな、と思って、拝借しました。

註:Pink Floydの "Atom Heart Mother"のタイトルは、"Atom Heart Mother"もしくは"Nuclear Drive for Woman's Heart"という新聞の見出しにインスパイアされたと言われている。

サウンド的には「いのちになって」は、ロック的に変化してますね。

元々、ファーストアルバムもトラック自体はビートが効いててヒップホップっぽい箇所もあるかと思うんですけど、曲の構成自体は、Aメロ-Bメロ-サビとか、ロックなんです。気持ちいいところは全部ロックの理屈で出来ています。

ファーストの頃と、「アトム・ハート・マザー」制作時と、現在と、感覚が変わってきている所はありますか?

ファーストの時は、わからないことをわかるために手探りで歩いていってる感じがすごくあったんですけど、今回は
これを主張したい、とか、これを守りたい、っていうことがハッキリした上で曲を作ってることが多くなりました。

後は見てる人に対して責任を負うということを思っています。
例えばわたしがライブで「これだけは信じて下さい。ロックンロールは死なない」って(演奏を)始めることで、そのことを信じて、死ぬ方が楽だった人が生き延びちゃうかもしれないんですね。
わたしは、生きた方がいいと、生きなきゃいけないと思ってるから、その人にも生きて欲しいんですけど、(その人にとって)生き延びた明日が死んだほうが楽なくらい苦しいかもしれない。

それでも(その人が)大丈夫なように、歌を歌う、っていうのがわたしの責任だし、その責任を負える、と思って最近は歌っているので、割と無双モードかもしれないです(笑)。

「アトム・ハート・マザー」、大学で反響はありましたか?

...仲いい子とかはチェックしてくれたり、買ってくれたりしてるんですけど...。
あとは3言くらいしか喋ったことない子から「CD屋さんにあったよ!」て写真が送られてくるんですけど、買いはしない、って(笑)。ホントそのくらいです。

大学生活はどうですか? 充実してますか?

イヤ、全く...。もう殆ど行ってないですし。勉強はよかったんですけど、もう全くです。

「死ぬまでに音楽になりたい」

春ねむり

「アトム・ハート・マザー」には前作と比べて立体的...ラップにも色彩があるような...「生」と「死」でいえば「生」を感じました。「生」とか「死」の匂いみたいなものが前作も含めてあるような気がします。

そうですね、はい。

春ねむりさんには「ロックンロールは死なない」って曲がありますが、「死なない」とか「死ぬ」とか「やっぱり生きてる」とか(ジャンルとして)言われるのって、ロックだけなような気がするんですよね。

ああ、そうかもしれないです。

「不滅のリズムアンドブルース」、「不滅の○○○○」みたいのはありがちなんですが、「サンバは死んだ」とかあんまり聞かない(笑)。生きるの死ぬのnever dieだのってロック特有の感覚なのかなって。春ねむりさんの2枚の作品にある、死生観とか生への渇望とかが、ない交ぜになった状態を、ロックから感じていたことはありますか?

ヒップホップとかレゲエとかは「スタンス」...「意思の表明」というか、こういう風に物事を考えていて、こう思うし、こう主張したい、という音楽なんで、死ぬとか死なない、じゃないんだろうな...。

ロックンロールは、それまでになかった居場所とか、空間の創造ですよね。ロックンロールは、その歴史の始まりから偽物で白人が黒人の真似をしてるのが面白かった。歴史的に言えばミンストレルショー(黒塗りの白人が黒人の歌やダンスの物真似をする19世紀米国の大衆芸能)のパロディがロックンロールの始まりだった。本物っぽくない、歴史に残るようなものじゃない、一瞬で使い古される、はずだったものが、白人が黒人の真似をしてアンプリファイした音で歌うってことが、今までになかったことで新しかった。それがロックンロールなんだなって教えられてきたし、そう思う。

そのロックンロールに初めて魅了された瞬間みたいなものは覚えていますか?

一番最初に好きになったのが志村正彦さんが生きてたときのフジファブリック Fujifabric_info なんですけど、大学生活も終盤になって「わたしが好きだったものって全部ロックンロールだったんだな」って気づいてから意識するようになりました。初めてライブに行くくらい好きになったクリープハイプも、あのハイトーンとキャッチーなメロディーが、新しくて凄いことだって気づいた。

「ロックンロールは死なない」の複雑な言葉の世界よりはかなりシンプルなロック賛歌ではあるんですが、The Velvet Undergroundの "Rock and Roll" では5歳の女の子がロックンロールを発見して、"Dance to the Rock'n'Roll Station"します。

この曲では「彼女の人生はロックンロールに救われた Her life saved by Rocl'n'Roll」というフレーズの重さが独特の切迫感を産んでいるのですが、ロックに対して「アガる!」みたいな感情以外の、「救われた」感覚ってありますか?

救われた、というかそれしかないと思った(笑)。多分初めて宗教的に信じた物がロックンロールです。

フジファブリックの「銀河」が凄い好きで、応援ソングじゃないのに、この曲の何に救われたのかなって大人になってから考えたときに「ロマンス」「ロックンロール」が全部詰まった、みたいな歌詞なんですよ、アレって(笑)。そういうものに救われたんだな、って。

「死ぬまでに音楽になりたい」っておっしゃってますよね。音楽をプレイするってことではなく...。

概念として「音楽」そのものになりたい。でもわたしもその全貌はわかってない(笑)。

例えば演奏を聴いている時に、その人の音楽を聴いてる、というより、その人そのものを聴いてるな、といった体験はありますか?

björk。声が「けもの」みたいだな、と思うんです。身体と精神の一番奥深いところで音楽と結合している、みたいな。

そういう存在になりたいですか?

ええ。でも「死ぬまでに音楽になりたい」は結構「は?」って言われること多いんですけど...。

僕は実は腑に落ちてて、その人そのものを聴いてる、という体験は数少ないですけどあるんですね。なので実現可能なタスクですよ(笑)。

命を賭ければ実現可能なタスク...なんだろうな、とは思ってます。

曲は作ったことなかったけど、作ってみたらできた。

春ねむり

MCで「高二まで自我がなかった」ってお話をされてたと思うんですが、バンドを始めたのも高二ですか?

バンドというか、曲を作り始めたのが高二くらいですね。

ボーカルの子と修学旅行の部屋で先生に内緒でテレビ見てたら、クリープハイプ creephyp が映ってて。「格好いい!」ってなって、「バンドやりたい!」ってなったのがきっかけです。「曲作りたい!」って思いました。

大体の人はそこで「ライブいきたい!!」とか思うんですよ(笑)。すぐ「曲作りたい」って思ったんですね。

「バンドやりたい!」ってなった時に、コピーバンドをやるって発想がなかったんで、曲がないとできないので「作れると思う!」って言いました、作ったことなかったけど(笑)。作ってみたらできた。

基本物を作るタイプの人だったんですか? 子供の頃から文章を書くのが好きだったとか...。

(文章を書くのは)好きっていうか得意でしたね。

でも図工とかは全然苦手で...。美術とかマジヤバくて「色彩感覚がトチ狂ってる」って言われてて(笑)。

(笑)小学生くらいになると、ずーーっと粘土をこねてる子供と、校庭を走り回る子供に分かれるじゃないですか。

わたしはずっと家で本読んでる子供でした。

制作はLogic Pro Xのみ

春ねむり

ご自身でトラックメイキングもされているということですが、基本はMacbook AirとLogic Pro X(Mac OS用シーケンサー・DAW[デジタルオーディオワークステーション]ソフトウェア)のみで制作されているということですか?

そうですね、Logicのみです。

入力はAKAI LPK25(小型のUSB-MIDI鍵盤)で?

打ち込むときに使ったりします、けど使わない時もあるし。

LPK25ってちっちゃい(25鍵)ヤツですよね。元々ピアノ・キーボード奏者だった春ねむりさんとしては使いづらくないですか(笑)。

わたしはDAWに打ち込む場合はドラム譜をMIDI鍵盤を使って打ち込んだりしないので。マウスでカチカチカチって(笑)。

ロールに直接?

そうですそうです!

AKAI MPCシリーズみたいなパッドを叩いて制作する感じではないんですね。

ああ、持ってないです。やったことないです。MIDI鍵盤は上物に使っていますね。単純にコード4つ回すのに、マウスでカチカチやるより、(鍵盤で)弾いたほうが早いから。

あとはLogicの基本機能で制作環境は完結していますか?

ほぼ完結しているんですけど、フリー音源の「Synth1」はすごい好きで使ってます。

特徴的だと思ったんですが、ヒップホップで使われるサンプリングの手法は使ってないですね?

わたしはヒップホップじゃないんで、使わないですね。

バンド時代からこういった制作スタイルなんですか?

バンド時代は(わたしが)トラックをつくって、ボーカルが歌とメロディーを乗せて、更にアレンジするみたいな感じでしたけど、トラックメイキングに関して、わたしがやってることは変わってないです。

制作は全部自宅ですか?

家です。歌を録るのはちょっと外ですけど...。家で作って、パラで(トラックごとに)書き出してエンジニアさんにぽーん、みたいな。

Audio Technica AT2020(マイク) と ALLEN & HEATH ZED-10(ミキサー) という、かなりミニマムな機材で録音されてるんですね。

ファーストなんて(SHURE SM-)58(ライブなどでよく使用される定番ダイナミックマイク)で録りましたからね(笑)。(AT2020は)58よりはいい!

一応、コンデンサー(マイク)ですからね。

最近ニュアンスというか、抑揚が激しくなってるな、というのは感じるので、1回ちゃんとしたマイクで録ったらどうなるのかなって(笑)。多分パッと聴きはわからなくても、ニュアンスが違うと思うんで、録れたらいいな、って(笑)。でもセット自体はミニマムな方がいいです。(他の)人とかいると緊張するんで。楽だし。

わたしと、見てくれる人の眼差しが「春ねむり」を形作る

春ねむり

いろんなジャンルの方と共演されていますが。

そうですね、どんなライブに出ても浮いちゃいますね。しょうがないです(苦笑)。浮くんですけど、格好いいか格好悪いかで言うと、格好いいと思ってもらえるライブができてるから大丈夫かな〜、みたいな(笑)。

ライブだと既にアルバムに入ってない新曲も演ってますね。

演らないほうがいいかな、とも思ったんですけど...。「春ねむり」という存在は、わたしだけじゃなくて、わたしと、見てくれる人の眼差しが「春ねむり」を形作るんだな、って思ってて。わたしの書く曲が「春ねむり」を構成するのものなら、見てくれる人の前で常に最新を更新しないといけないから。

曲がスタジオで完成しても、まだ「はじまり」というか、観客にぶつけて、そのフィードバックも含めて「春ねむり」というか。

(「春ねむり」は聴衆に)見えている風にしか存在しないものなので。それだけではないですけど、そのことをなしにすることは無意味なことだから。

音源と違って、ライブハウスは共有できる歴史の最先端だから、ライブを見に来て欲しい。

聴いてくれた人の反応で自分の書いた歌詞の意味がわかったりするんで。理屈はあるんですけど「なんでこの言葉が出てきたのかな?」って理由が半年後にわかったりするんです。

PICTURES (OF LILY)

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